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411 समाचार
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411 REFERENCE · Wikibooks

Japanese/Reader/The Crab and The Monkey

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蟹 かにの握り飯を奪った猿 さるはとうとう蟹に仇 かたきを取られた。 蟹は臼 うす、蜂 はち、卵と共に、怨敵 おんてきの猿を殺したのである。 ――その話はいまさらしないでも好 よい。 ただ猿を仕止めた後 のち、蟹を始め同志のものはどう云う運命に逢着 ほうちゃくしたか、それを話すことは必要である。 なぜと云えばお伽噺 とぎばなしは全然このことは話していない。  いや、話していないどころか、あたかも蟹は穴の中に、臼は台所の土間 どまの隅に、蜂は軒先 のきさきの蜂の巣に、 卵は籾殻 もみがらの箱の中に、太平無事な生涯でも送ったかのように装 よそおっている。  しかしそれは偽 いつわりである。 彼等は仇 かたきを取った後、警官の捕縛 ほばくするところとなり、ことごとく監獄 かんごくに投ぜられた。 しかも裁判 さいばんを重ねた結果、主犯 しゅはん蟹は死刑になり、臼、蜂、卵等の共犯は無期徒刑の宣告を受けたのである。 お伽噺 とぎばなしのみしか知らない読者はこう云う彼等の運命に、怪訝 かいがの念を持つかも知れない。 が、これは事実である。寸毫 すんごうも疑いのない事実である。  蟹 かには蟹自身の言によれば、握り飯と柿 かきと交換した。 が、猿は熟柿 じゅくしを与えず、青柿 あおがきばかり与えたのみか、蟹に傷害を加えるように、さんざんその柿を投げつけたと云う。 しかし蟹は猿との間 あいだに、一通の証書も取り換 かわしていない。 よしまたそれは不問 ふもんに附しても、握り飯と柿と交換したと云い、熟柿とは特に断 ことわっていない。 最後に青柿を投げつけられたと云うのも、猿に悪意があったかどうか、その辺 へんの証拠は不十分である。 だから蟹の弁護に立った、雄弁の名の高い某弁護士も、裁判官の同情を乞うよりほかに、策の出づるところを知らなかったらしい。 その弁護士は気の毒そうに、蟹の泡を拭ってやりながら、 「あきらめ給え」と云ったそうである。もっともこの「あきらめ給え」 は、死刑の宣告を下されたことをあきらめ給えと云ったのだか、弁護士に大金 たいきんをとられたことをあきらめ給えと云ったのだか、 それは誰にも決定出来ない。  その上新聞雑誌の輿論 よろんも、蟹に同情を寄せたものはほとんど一つもなかったようである。 蟹の猿を殺したのは私憤 しふんの結果にほかならない。 しかもその私憤たるや、己 おのれの無知と軽卒 けいそつとから猿に利益を占められたのを忌々 いまいましがっただけではないか? 優勝劣敗の世の中にこう云う私憤を洩 もらすとすれば、愚者にあらずんば狂者である。 ――と云う非難が多かったらしい。 現に商業会議所会頭某男爵 だんしゃくのごときは大体上 かみのような意見と共に、蟹の猿を殺したのも多少は流行の危険思想にかぶれ たのであろうと論断した。 そのせいか蟹の仇打 かたきうち以来、某男爵は壮士のほかにも、ブルドッグを十頭飼 かったそうである。  かつまた蟹の仇打ちはいわゆる識者の間 あいだにも、一向 いっこう好評を博さなかった。 大学教授某博士 はかせは倫理学上の見地から、蟹の猿を殺したのは復讐 ふくしゅうの意志に出 でたものである、復讐は善と称し難 いと云った。 それから社会主義の某首領は蟹は柿とか握り飯とか云う私有財産を難有 ありがたがっていたから、 臼や蜂や卵なども反動的思想を持っていたのであろう、事によると尻押 しりおしをしたのは国粋会 こくすいかいかも知れないと云っ た。 それから某宗 ぼうしゅうの管長某師は蟹は仏慈悲 ぶつじひを知らなかったらしい、たとい青柿を投げつけられたとしても、 仏慈悲を知っていさえすれば、猿の所業を憎む代りに、反 かえってそれを憐んだであろう。 ああ、思えば一度でも好 いいから、わたしの説教を聴かせたかったと云った。 それから――また各方面にいろいろ批評する名士はあったが、いずれも蟹の仇打ちには不賛成 ふさんせいの声ばかりだった。 そう云う中にたった一人、蟹のために気を吐いたのは酒豪 しゅごう兼詩人の某代議士である。 代議士は蟹の仇打ちは武士道の精神と一致すると云った。 しかしこんな時代遅れの議論は誰の耳にも止 とまるはずはない。 のみならず新聞のゴシップによると、その代議士は数年以前、動物園を見物中、猿に尿 いばりをかけられたことを遺恨 いこんに思って いたそうである。  お伽噺 とぎばなししか知らない読者は、悲しい蟹の運命に同情の涙を落すかも知れない。 しかし蟹の死は当然である。 それを気の毒に思いなどするのは、婦女童幼のセンティメンタリズムに過ぎない。 天下は蟹の死を是 ぜなりとした。現に死刑の行われた夜 よ、判事、検事、弁護士、看守 かんしゅ、 死刑執行人、教誨師 きょうかいし等は四十八時間熟睡したそうである。その上皆夢の中に、天国の門を見たそうである。 天国は彼等の話によると、封建時代の城に似たデパアトメント・ストアらしい。  ついでに蟹の死んだ後 のち、蟹の家庭はどうしたか、それも少し書いて置きたい。 蟹の妻は売笑婦 ばいしょうふになった。 なった動機は貧困のためか、彼女自身の性情のためか、どちらか未 いまだに判然しない。 蟹の長男は父の没後、新聞雑誌の用語を使うと、「飜然 ほんぜんと心を改めた。」 今は何でもある株屋の番頭か何かしていると云う。 この蟹はある時自分の穴へ、同類の肉を食うために、怪我 けがをした仲間を引きずりこんだ。 クロポトキンが相互扶助論 そうごふじょろんの中に、蟹も同類を劬 いたわると云う実例を引いたのはこの蟹である。 次男の蟹は小説家になった。 勿論 もちろん小説家のことだから、女に惚 ほれるほかは何もしない。 ただ父蟹の一生を例に、善は悪の異名 いみょうであるなどと、好 いい加減 かげんな皮肉を並べている。 三男の蟹は愚物 ぐぶつだったから、蟹よりほかのものになれなかった。 それが横這 よこばいに歩いていると、握り飯が一つ落ちていた。 握り飯は彼の好物だった。 彼は大きい鋏 はさみの先にこの獲物 えものを拾い上げた。 すると高い柿の木の梢 こずえに虱 しらみを取っていた猿が一匹、――その先は話す必要はあるまい。  とにかく猿と戦ったが最後、蟹は必ず天下のために殺されることだけは事実である。 語を天下の読者に寄す。君たちもたいてい蟹なんですよ。